クラフトジンとは?
初心者向け完全ガイド
スピリッツとしてのジンの定義から、ジュニパーをはじめとするボタニカル、ポットスチルや減圧蒸留といった製法、そして「季の美」から始まったジャパニーズクラフトジンの歴史までを、一次ソースに基づき15分で読めるかたちにまとめました。クラフトジンの世界に足を踏み入れる最初の1歩として。
最終更新: 2026年5月6日 / 出典: EU Regulation 2019/787、国税庁、The Gin Guild、Difford's Guide、World Gin Awards、日本ジン協会、各蒸溜所公式サイト
1. ジンとは何か?スピリッツの中での位置づけ
ジン(Gin)は、ジュニパーベリー(西洋ネズの実)を主要な香味原料とする蒸留酒です。蒸留酒は「スピリッツ」とも呼ばれ、ビールやワインのような醸造酒を蒸留してアルコール度数を高めた飲料の総称です。
世界の主要な蒸留酒には次のようなものがあります。
| スピリッツ | 主な原料 | 代表的な特徴 |
|---|---|---|
| ウイスキー | 大麦・トウモロコシ等の穀物 | 木樽熟成で琥珀色 |
| ジン | 穀物由来の中性スピリッツ+ボタニカル | ジュニパーが主役の香り |
| ウォッカ | 穀物・じゃがいも | 無色・無味に近い純度 |
| ラム | サトウキビ | カリブ発祥の甘みある酒 |
| テキーラ | アガベ(リュウゼツラン) | メキシコ原産 |
| ブランデー | ぶどう・果実 | ワインを蒸留 |
ジンの最大の特徴は、ベースとなる中性スピリッツにジュニパーベリーを中心とした植物原料(ボタニカル)の香りを移すという構造にあります。木樽で何年も寝かせるウイスキーやブランデーとは異なり、ジンは熟成を必須としません。蒸留してすぐに瓶詰めできるため、製造のハードルが比較的低く、結果としてクラフトの動きが世界中で広がりやすかったジャンルでもあります。
2. ジンの法的定義(EU規則 2019/787)
「ジン」を国際的に定義しているのが、欧州連合(EU)のRegulation (EU) 2019/787(スピリッツ飲料規則)です。日本の酒税法には「ジン」という独立カテゴリが存在しないため、世界的にはこのEU規則が事実上のスタンダードとして参照されています。
EU規則は、ジン関連のスピリッツを4カテゴリに分けています。
| カテゴリ | 度数 | ジュニパー要件 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| Juniper-flavoured spirit drinks(Cat 19) | 30% | 必要(J. communis または J. oxycedrus) | ジュニパー風味のスピリッツ全般。シュナップス等を含む広いカテゴリ |
| Gin(Cat 20) | 37.5% | 主体(predominant)であること | 天然・準天然の香味料の使用が認められる |
| Distilled Gin(Cat 21) | 37.5% | 主体、かつ蒸留時にボタニカル存在下 | 96%以上の中性スピリッツとボタニカルを再蒸留して製造 |
| London Gin(Cat 22) | 37.5% | 主体、すべてが蒸留時のみで付与 | 着色料・香味料の後添加禁止。甘味料は最終製品1Lあたり0.1g以下 |
覚えておきたいのは次の3点です。
- 「Gin」と名乗るには最低37.5%のアルコール度数が必要(Juniper-flavoured spirit drinksは30%以上で別カテゴリ)。
- ジュニパーが「主体」であること。柚子や桜が香っていても、ジュニパーの存在感がなければ法的にはジンとは呼べない、というのがEUの考え方です。
- もっとも厳格なのが「London Gin」(いわゆるロンドン・ドライ・ジン)。蒸留時にすべての風味付けを終える必要があり、後から香味料・着色料を加えることは一切認められていません。「Dry」を名乗るには甘味料が0.1g/L以下である必要があります。
出典: EU Regulation 2019/787, Annex I(EUR-Lex)、The Gin Guild "What is Gin?"
3. 日本の酒税法でのジンの扱い
では日本ではジンはどう扱われているのでしょうか。結論から言うと、日本の酒税法には「ジン」という独立した品目カテゴリは存在しません。
国税庁の「酒税法における酒類の分類及び定義」によれば、酒類は4つの大区分に分けられます。
- 発泡性酒類(ビール、発泡酒等)
- 醸造酒類(清酒、ワイン等)
- 蒸留酒類(連続式蒸留焼酎、単式蒸留焼酎、ウイスキー、ブランデー、原料用アルコール、スピリッツ)
- 混成酒類(リキュール、みりん等)
このうち、蒸留酒類のなかで他のいずれにも該当しない酒類で、エキス分が2度未満のものが「スピリッツ」に分類されます。ジン・ウォッカ・ラム・テキーラはすべてこの「スピリッツ」に含まれることになります。
つまり、日本では「ジンを名乗るためのジュニパー必須要件」も「最低アルコール度数の規定」もないのです。法的には、何のボタニカルを使っていても、極端な話アルコール度数20%でも、エキス分が2度未満なら「スピリッツ」として販売できます。
ただし実態としては、日本のクラフトジン蒸溜所はほぼ例外なくEU規則の基準(ジュニパー主体・37.5%以上)に自主的に準拠しています。「ジン」と名乗って国際的に通用するためには、世界共通言語であるEU基準を満たすことが現実的なスタンダードになっているからです。
4. 「クラフトジン」とは何か
「クラフトジン(Craft Gin)」という言葉に法的な定義はありません。EU規則にも、英国の法律にも、日本の酒税法にも該当条項は存在せず、英国の業界団体 The Gin Guild も公式に「クラフトジンの法的定義はない」と整理しています。
これは、2000年代以降のクラフトビール運動から派生した呼称です。法的な裏付けはなくても、業界では概ね次のような特徴を備えたジンを「クラフトジン」と呼ぶ傾向があります。
- 小規模蒸溜所での生産(年産量に明確な基準はない)
- 独立系の運営(大手酒類メーカーの傘下ではない、または個別ブランドとして独立した方針を持つ)
- 個性的なボタニカル選定(地元産素材や独自レシピへのこだわり)
- 蒸留所のストーリー性(職人的なクラフトマンシップを打ち出す)
ただし「年産○本以下がクラフト」「資本系列が○○以下がクラフト」といった数値基準は存在しません。サントリーのROKUのような大手ブランドが「ジャパニーズクラフトジン」を名乗ることもあれば、岐阜の辰巳蒸留所のようにごく小規模な独立蒸溜所もクラフトジンを名乗ります。「クラフト」は法的カテゴリではなく、生産者の姿勢を示す呼称と理解しておくのが現実的です。
5. ジンの香りを決めるボタニカル
ジンの個性を決定づけるのがボタニカルと呼ばれる植物性の香味原料です。蒸溜所ごとに何を選び、どう組み合わせるかでジンの表情が大きく変わります。
ジュニパーベリー(必須素材)
ジンの主役は、針葉樹の一種である西洋ネズ(学名 Juniperus communis L.)の実、ジュニパーベリーです。EU規則上、ジンを名乗るには「ジュニパーの風味が主体(predominant)であること」が必須要件として定められています。
主な産地はマケドニア、イタリア(特にトスカーナ)、セルビア、ボスニアなど。地域によって香りに違いがあり、たとえばマケドニア産はオイリーで濃厚、イタリア産はクリーンでフレッシュとされています。香りの特徴はパイン(松脂)のような清涼感、樹脂質、わずかな柑橘ニュアンスです。The Gin Guildは「Without juniper, there is no gin(ジュニパーなくしてジンは存在しない)」と表現しています。
クラシックジンの定番ボタニカル
ジュニパーに加え、伝統的なジンレシピでは次のようなボタニカルが多用されます。
| 分類 | 代表的ボタニカル | 役割 |
|---|---|---|
| コア/ベース | ジュニパーベリー、アンジェリカルート、オリスルート | 骨格作り。アンジェリカは他の香りを束ねる「結合剤」、オリスは香りの定着剤として働く |
| シトラス | レモンピール、オレンジピール、柚子 | 爽やかな柑橘香。皮の油分を活かす |
| ハーバル | コリアンダー、紫蘇、笹、緑茶 | ジュニパーに次いで重要なコリアンダーは、生姜様の上品な香り |
| スパイス | カルダモン、カッシア、山椒、生姜、黒胡椒 | 複雑さと余韻を加える |
| フローラル | 桜花、エルダーフラワー、ローズ | 華やかさを付与 |
| ウッディ/その他 | ヒノキ、黒文字、リコリス、カッシア樹皮 | 深みと甘さ。日本らしさを出す要素 |
日本のクラフトジンが切り開いた和ボタニカル
日本のクラフトジンが世界で評価される最大の理由が、和素材のボタニカル活用です。各蒸溜所の公式情報で確認できる代表例を挙げます。
- 柚子: 季の美(京都蒸溜所)、ROKU(サントリー)、SAKURAO(サクラオB&D)など多くの蒸溜所で採用
- 玉露・煎茶: 季の美、ROKU、SAKURAOで使用。茶葉が持つ旨みとほろ苦さがジンに新しい奥行きをもたらす
- 山椒・木の芽: 季の美、ROKU、SAKURAO(山椒の葉)。日本特有のスパイス感
- 桜(花・葉): ROKUで桜花・桜葉ともに使用。SAKURAOでも桜採用
- 檜(ヒノキ): SAKURAOが採用。樹木の清涼感
- 黒文字(クロモジ): 養命酒製造「香の森」が主役素材として採用、SAKURAOでも使用
- 紫蘇: 季の美(赤しそ)、SAKURAO(赤・青しそ)
ジンに使えるボタニカルから「日本ジンを探す」ときは、ボタニカル逆引きページもぜひ参考にしてください。
出典: The Gin Guild Ginopedia (Juniper)、Difford's Guide - Gin Botanicals、nippon.com「季の美 京都ドライジン」、サントリー ROKU公式、サクラオB&D公式、養命酒製造「香の森」公式
6. ジンの蒸留方法
同じボタニカルを使っても、蒸留方法が違えば仕上がりは大きく変わります。クラフトジンを楽しむなら、製法の違いも知っておくと味わいが2倍深くなります。
蒸留器:単式(ポットスチル) vs 連続式(カラムスチル)
単式蒸留器(Pot Still)は、釜の上部から伸びる白鳥の首のような管が特徴的な、シンプルな構造の蒸留器です。バッチ単位で動かすため一度に大量生産はできませんが、ボタニカルの芳香成分を残しやすく、クラフトジンの主役となっている方式です。
一方連続式蒸留器(Column Still)は、垂直の塔状で内部に多数の棚段を備え、連続運転で最大96.3%の高純度までアルコールを引き上げられる蒸留器です。クラフトジンの世界では、まず連続式でベースとなる中性スピリッツを作り、それを単式蒸留器でボタニカルとともに再蒸留するのが典型的なフローです。
浸漬法 vs ベイパーインフュージョン
ボタニカルから香りを抽出する方法には、大きく2つの流派があります。
| 方式 | 仕組み | 特徴 | 代表例 |
|---|---|---|---|
| 浸漬法 (Maceration) | 中性スピリッツにボタニカルを直接浸ける(数時間〜48時間) | エキス抽出効率が高く、骨太でリッチな味わいに | Beefeater(24時間浸漬) |
| ベイパー インフュージョン (Vapor Infusion) | 蒸気だけをボタニカルに通し、香気成分を抽出 | クリーンで繊細、軽やかな仕上がり | Bombay Sapphire |
多くのクラフトジン蒸溜所は、ボタニカルごとに浸漬と蒸気抽出を使い分け、最終的にブレンドして1本のジンを完成させます。
減圧蒸留:低温で繊細な香りを守る
減圧蒸留(Vacuum Distillation)は、ポンプで蒸留器内の気圧を下げることでアルコールの沸点を大幅に下げる手法です。通常95〜100℃で行う蒸留を、25〜40℃前後の低温で行えるため、熱に弱いトップノート(柑橘香、フローラル香)を壊さず抽出できます。
たとえばサントリーは、ROKUの製造において「桜の繊細な香りはステンレスポットスチルでの減圧蒸留で引き出し、柚子の深い味わいは銅製ポットスチルで通常蒸留する」と公式に明らかにしています。日本のクラフトジン蒸溜所が桜・煎茶・玉露・柚子・山椒といった繊細な和ボタニカルの香りを表現するために減圧蒸留を採用するケースは多く、ジャパニーズクラフトジンの個性を生み出す技術的背景になっています。
出典: Difford's Guide - Pot v Column Distillation、Difford's Guide - How is Gin Made、The Gin Guild - Osaka Distillery / ROKU
7. ジャパニーズクラフトジンの歴史と特徴
日本のジン製造史を、起点となるいくつかのトピックで整理します。
1936年:壽屋(現サントリー)「ヘルメスジン」
国産ジンの歴史は意外と古く、1936年に壽屋(現サントリー)が「ヘルメスジン」を発売したことが、確認できる最古の国産ジンとされています。「日本初のジン」を探すならばこちらが正解で、「日本初のジン専門蒸溜所」とは別の話として整理しておく必要があります。
2016年:京都蒸溜所「季の美」が業界を変えた
現在のジャパニーズクラフトジンブームの明確な起点になったのが、2016年10月発売の「季の美 京都ドライジン」(京都蒸溜所)です。京都蒸溜所自身が公式サイトで「日本初となるジン専門の蒸溜所」と明記しているとおり、ジン製造のために設立された日本初の専門蒸溜所として歴史を切り開きました。
季の美は11種のボタニカルを「6つのエレメント」(礎・柑・凛・辛・茶・芳)に分け、それぞれ別々に蒸留してから、伏見の名水でブレンドする独自製法を採用。玉露・柚子・山椒・木の芽・赤紫蘇など、日本の地理的・文化的個性を全面に押し出した設計が、世界のジン市場に新風を吹き込みました。
2017年:ジャパニーズクラフトジンの本格到来
2017年は、日本のジン市場にとって決定的な年でした。
- 2017年5月: 本坊酒造「Japanese GIN 和美人」発売(鹿児島・マルス津貫蒸溜所)
- 2017年6月: ニッカウヰスキー「ニッカ カフェジン」発売(カフェ式連続蒸留器を活かした個性派)
- 2017年7月: サントリー「ROKU〈六〉」発売(桜花・桜葉・煎茶・玉露・山椒・柚子の和素材6種)
- 同年: 岐阜・辰巳蒸留所が創業(「アルケミエ」ブランドでジン・アブサン製造)
2018年〜:全国各地に蒸溜所が広がる
季の美以降、各地に独自素材を活かしたクラフトジン蒸溜所が次々と誕生しています。広島のサクラオB&D(2018年「SAKURAO GIN」発売、創業100周年の節目に本格参入)、北海道初のクラフトジン蒸溜所を自称する札幌の紅櫻蒸溜所(2018年4月開業、「9148」ブランド)、長野・養命酒製造の「香の森」(2019年3月発売、クロモジ主体)など、地域素材の物語を背負ったクラフトジンが市場を厚くしています。
国際的な評価:World Gin Awards での快挙
世界最大級のジンコンテスト World Gin Awards(worldginawards.com)で、2024年・2025年と日本のジンが2年連続で部門別の世界最高賞(World's Best)を獲得しています。
- 2024年: ニセコ蒸溜所「ohoro GIN Standard」が Classic Gin部門 で World's Best
- 2025年: 松井酒造(鳥取県倉吉蒸溜所)「白兎プレミアム」が Contemporary Style Gin部門 で World's Best
注意したいのは、これは「同じ部門で2連覇」したわけではなく、異なる蒸溜所が異なる部門で連続的に世界最高賞を取ったということ。それでもなお、世界のジンコンテストで2年連続して日本のジンが各部門のトップに立ったという事実は、ジャパニーズクラフトジンが「地域のニッチ」から「国際的な主役」に格上げされたことを示しています。受賞史の詳細は受賞ジン年表で確認できます。
蒸溜所数:国内100以上
日本ジン協会の2023年11月調査によると、国産ジン蒸溜所は100以上、商品数は365に達しています。クラフトビールが定着していった2010年代を、ジンが追いかけているような構図です。
出典: 京都蒸溜所公式、サントリー洋酒文化創造の歴史、ROKU公式、アサヒビール ニュースリリース(ニッカ カフェジン)、本坊酒造「和美人」公式、World Gin Awards 公式、日本ジン協会
8. 初心者のためのジン選び3ステップ
クラフトジンの世界は深いですが、最初の1本を選ぶときは、次の3ステップで考えると迷いません。
ステップ1:好きな香りの方向を決める
- シトラス系(柚子、レモン、オレンジ) → 爽やかでジントニック向き。ROKU、SAKURAO ORIGINAL など
- スパイス系(山椒、生姜、黒胡椒) → 食中酒として、ストレートやロックで個性を楽しむ
- フローラル系(桜、エルダーフラワー) → 華やかで、初心者にも飲みやすい
- クラシックドライ系(ジュニパー強め) → 王道のジン。マティーニやジントニックの定番に
ステップ2:飲み方で選ぶ
- ジントニックを楽しみたい → クラシックドライ系。ROKU、季の美 京都ドライジンが鉄板
- ストレート・ロックで香りを味わいたい → 個性派の和ボタニカル系。香の森、ohoro GIN、和美人など
- ギフト・贈答用 → 受賞歴やストーリー性のある銘柄。受賞ジン年表から選ぶのが確実
ステップ3:価格帯で絞る
- 〜3,000円: 日常用。ROKU(700ml ¥4,400前後)、SAKURAO ORIGINAL(500ml ¥2,200前後)、白兎-HAKUTO-(700ml ¥1,496)
- 3,000〜6,000円: プレミアム。季の美 京都ドライジン、白兎プレミアム(¥3,960)、ohoro GIN Standard
- 6,000円〜: 贈答用・特別な日。和美人 The Forest、季の美 勢、ohoro GIN 限定エディションなど
※ 価格は各蒸溜所公式の希望小売価格を参考に記載。実勢価格は取扱店により変動します。