BEGINNER GUIDE

ジャパニーズジンの
歴史と魅力

日本のジンの歴史は、1936年に始まり、長い空白期を経て、2016年に大きく動き出しました。そして2024年と2025年、World Gin Awards で日本勢が2年連続部門別世界最高賞を獲得し、ついに世界の主役の一角に──。90年の年代記を、節目となった出来事と人物・銘柄でたどります。

最終更新: 2026年5月7日 / 出典: 各蒸溜所公式リリース、World Gin Awards 公式、日本ジン協会2023年調査、サントリー洋酒文化資料、本坊酒造公式、業界専門メディア(Bar Times、Liquor Page、日経新聞、PR Times)

1. いま、ジャパニーズジンが世界の主役へ

2024年3月、ロンドンで発表されたWorld Gin Awards──世界最大級のジンコンテストで、北海道ニセコ町のニセコ蒸溜所ohoro GIN Standard」が、Classic Gin部門の世界最高賞「World's Best Classic Gin」を受賞しました。

翌2025年。今度は鳥取・倉吉の松井酒造白兎プレミアム」が、Contemporary Style Gin部門の世界最高賞を獲得。異なる蒸溜所が、異なる部門で、2年連続して部門別世界最高賞を取った──これが現在のジャパニーズクラフトジンの位置です。

では、日本のジンはいつから世界に届くようになったのか。実は、その歴史は決して短くありません。1936年に始まった国産ジンの物語が、2016年に京都で再起動し、約10年でここまで来た──その90年の歩みを、この記事で年代記としてたどっていきます。

2. 1936年:「ヘルメスジン」が国産ジンの扉を開いた

確認できる最古の国産ジンは、1936年(昭和11年)に壽屋(ことぶきや、現サントリー)が発売した「ヘルメスジン(HERMES DRY GIN)」です。サントリーの洋酒文化史にも記載されており、戦前の都市部でカクテル文化が花開いていた時代に、輸入品中心のジン市場に投じられた一本でした。

ただし、これは現代の「クラフトジン」とは別の文脈です。当時のヘルメスジンは大量生産型のロンドン・ドライ・ジンを範とした洋酒近代化の一環として位置づけられるべきもので、日本独自のボタニカルや小規模蒸溜の発想は、ここにはまだありませんでした。

とはいえ、「日本人の手でジンを作る」という選択肢が90年前からあったという事実は、現代ジャパニーズジンの精神史をたどるうえで重要な原点です。

出典: サントリー「洋酒文化創造の歴史」。本記事ではヘルメスジンを「確認できる最古の国産ジン」として記載しており、「日本初」という表現は厳密な裏付けが取れない範囲では避けています。

3. 空白の70年:日本でジンが育たなかった理由

ヘルメスジン以降、戦後から2000年代までの約70年間、日本のジン市場は実質的に停滞します。理由は大きく3つに整理できます。

第1に、戦後復興期から高度成長期にかけて、日本人が選んだ酒は焼酎・ウイスキー・ビール・日本酒でした。ジンは「カクテルベースの輸入洋酒」という位置づけにとどまり、自分で飲むスピリッツとして大衆化することがなかった。

第2に、酒税法の壁です。日本の酒税法では、スピリッツ製造免許の最低製造数量基準が高く、小規模事業者の参入が困難な時代が長く続きました。これが2008年に酒税法・酒税法施行令が改正され、小規模なスピリッツ製造が現実的に可能になったことが、後のクラフトジン爆発の制度的基盤になります。

第3に、世界的なクラフトジンブームのタイミングです。2000年代後半から英国でクラフトジン革命が起き、その流れが日本に到達するまでに約10年。世界のうねりが日本に届いた瞬間が、まさに2016年の京都だった──というのが、いま振り返ったときに見える時系列です。

つまり、日本のジンが2016年以降に一気に動き出したのは偶然ではなく、「制度の解禁」と「世界のブーム」と「日本独自の素材を活かす感性」が同じタイミングで揃った結果だった、ということになります。

4. 2016年10月14日:京都蒸溜所「季の美」が業界を変えた

現在のジャパニーズクラフトジンブームの明確な起点が、2016年10月14日に発売された「季の美 京都ドライジン」京都蒸溜所)です。京都蒸溜所自身が公式に「日本初のジン専門蒸溜所」を標榜しており、ジン製造のために設立された日本初の専門蒸溜所として歴史を切り開きました。

11種のボタニカルと「6つのエレメント」

季の美は、11種のボタニカル(ジュニパーベリー・オリスルート・ヒノキ・玉露・ゆず・レモン・山椒・生姜・笹の葉・赤しそ・木の芽)を、「6つのエレメント」(礎・柑・凛・辛・茶・芳)に分け、それぞれ別々に蒸留してから、伏見の名水でブレンドする独自製法を採用しました。

玉露・柚子・山椒・木の芽・赤しそ──。日本の地理的・文化的個性を全面に押し出した素材選定は、世界のジン市場に新風を吹き込みました。2018年、京都蒸溜所はIWSC(International Wine & Spirit Competition)2018"International Gin Producer of the Year"を獲得。「世界最高のジン製造者」として国際的な認知を一気に獲得しています。

「日本らしさ」を世界に提示する初の成功例

季の美が画期的だったのは、ジンの世界標準である「ジュニパー主体」のルールを守りながら、残りのボタニカル枠を日本固有素材で埋めるという設計を、全世界に対して明確に提示したこと。これ以降、「ジャパニーズジン=和素材を活かしたクラフトジン」という新カテゴリが成立し、世界中の蒸溜所がこの設計思想を意識するようになります。

出典: 京都蒸溜所「季の美」公式Bar Times「季の美 京都ドライジンのご紹介」The Gin Guild Ginopedia

5. 2017年:本格到来の年

季の美の成功が引き金となり、2017年は日本のジン市場にとって決定的な転換点になりました。わずか半年の間に、現在のジャパニーズジンを代表する4本が一気に登場します。

3月30日:本坊酒造「Japanese GIN 和美人」発売

鹿児島・南さつま市のマルス津貫蒸溜所から発売されたのが、本坊酒造の「Japanese GIN 和美人(WABIGIN)」(2017年3月30日)。津貫加世田で収穫された金柑、辺塚橙(へつかだいだい)、けせん(ニードルウッド)、月桃など、薩摩の地の素材を11種ボタニカルとして織り込んだ、地域性が極めて強いクラフトジンです。

6月:辰巳蒸留所創業(岐阜・郡上市)

東京農業大学醸造学科出身の辰巳祥平氏が、岐阜県郡上市八幡町に小規模蒸留所(辰巳蒸留所)を設立。屋号は「アルケミエ(Alchemiae)」。WET.MMXXI、First Essence LAVENDER GIN、金木犀ジン、樽熟成 Demon ORANGE など、少量生産・実験的な銘柄の宝庫として現在まで個性を発揮し続けています。

6月27日:ニッカウヰスキー「ニッカ カフェジン」発売

ウイスキーの名門ニッカウヰスキーが投入したのが、宮城峡蒸溜所カフェ式連続蒸留器を活かした「NIKKA COFFEY GIN(ニッカ カフェジン)」。柚子・甘夏・かぼす・シークヮーサーの和柑橘4種に山椒、合計11種のボタニカルを使用。カフェ蒸溜液のなめらかな口当たりと和柑橘の華やかさを掛け合わせた、ニッカらしい設計のクラフトジンです。

余談ですが、ニッカ カフェジンは栃木工場ではなく宮城峡蒸溜所で製造されています。製造場所と熟成・ブレンド場所が分かれているのがニッカの特徴で、栃木工場は熟成・ブレンドの拠点です。

7月4日:サントリー「ROKU〈六〉」発売

そして7月4日、ヘルメスジンから81年──サントリーが満を持して放った本格ジャパニーズクラフトジン「ROKU〈六〉」サントリー大阪工場製造)。和素材6種(桜花・桜葉・煎茶・玉露・山椒・柚子)と伝統ボタニカル8種、合計14種のボタニカルを駆使した銘柄です。

ROKUの設計思想は「shun(旬)」──春は桜花・桜葉、夏は煎茶・玉露、秋は山椒、冬は柚子。日本の四季の移ろいをジン1本に表現するという、文化的厚みのあるアプローチが世界的な評価を獲得しました。日本のジンを「文化として味わう」感性をグローバルに広めた立役者と言えます。

出典: 本坊酒造「和美人」公式(2017.03.30 release)アサヒビール ニッカ カフェジンニュースリリースサントリー ROKU公式サントリー ROKU公式(英語)

6. 2018-2019年:全国へ広がるクラフトジン

2017年の主要4本に続き、各地に独自素材を活かした蒸溜所が次々と立ち上がります。「自分の地元の素材で、自分のジンを作る」──このマインドセットが全国に広がった2年間でした。

2018年3月5日:サクラオB&D「SAKURAO GIN ORIGINAL」

広島・廿日市の老舗酒造(旧 中国醸造、現サクラオB&D)が、創業100周年の節目に投入した広島県初のクラフトジン。レモン・ネーブル・夏みかん・緑ゆず(安芸高田)・ダイダイ・ヒノキ・緑茶(府中)・赤しそ・ジンジャー(三次)という広島産9種+海外5種の構成で、地元素材への徹底的なこだわりを見せました。同社は2021年3月に社名を中国醸造からサクラオブルワリーアンドディスティラリー(サクラオB&D)に変更しています。

2018年4月26日:紅櫻蒸溜所が北海道初のジン蒸溜所として開業

札幌市南区澄川の紅櫻公園内に開業した紅櫻蒸溜所。「9148」シリーズで北海道の素材を圧倒的なバリエーションで投入する個性派路線が特徴で、エディションごとにボタニカル構成が変わります(#0101 STANDARDには日高昆布・切干大根・干し椎茸・ブルーベリー・ラベンダー、#0396 SAKURAには桜の葉・桜の花・函館真昆布、#0211 FUKINOTOにはフキノトウ等)。少人数運営の小規模蒸溜所が独自の魅力を発揮できることを証明した存在です。

2019年3月:養命酒製造「香の森」

長野・駒ヶ根の養命酒製造が、薬用酒のノウハウを活かして発売したのが「香の森(Kanomori)」100種類を超えるボタニカルから18種類を厳選し、クロモジ(黒文字、Lindera umbellata)の細枝のみを別途蒸留した液と、その他のボタニカルを浸漬蒸留した液をブレンドする独自製法を採用しました。森林浴のような落ち着いた香りは、これまでのジャパニーズジンとも一線を画す独自路線として評価されています。

2019-2021年:ニセコ蒸溜所の準備期間

後の世界最高賞受賞へつながるニセコ蒸溜所は、2019年2月に創業し、約2年半の試験醸造を経て2021年10月にグランドオープン。湿原に自生するヤチヤナギ(Myrica galeとニホンハッカを主役素材に据え、北海道ニセコ町の高品質軟水で蒸留する設計で世界に挑むことになります。

出典: サクラオ蒸溜所公式ニュース紅櫻蒸溜所公式養命酒製造「香の森」公式ニセコ蒸溜所公式

7. 2024年:ニセコohoroが世界最高賞へ

そして2024年。世界最大級のジンコンテストWorld Gin Awards(運営: TheDrinksReport / The Gin Guild 関係)の発表で、衝撃のニュースが日本に届きます。

ニセコ蒸溜所「ohoro GIN Standard」が、Classic Gin部門の世界最高賞「World's Best Classic Gin」を受賞

ohoro GIN Standardは、ヤチヤナギ・ニホンハッカ・ジュニパー・コリアンダー・アンジェリカルート・オリスルート・リコリス・カモミール・レモン・オレンジ・柚子・ライム・グレープフルーツの13種ボタニカルを、標準的なジン(40〜45%)より高めの47%で仕上げた一本。北海道の冷涼な気候で育つ素材と、軟水のミネラル感が、伝統的なクラシックジンの枠組みのなかで独自の表現を可能にしました。

ニセコ蒸溜所の創業はわずか2019年。設立から5年で、世界最大級のジンコンテストでクラシック部門の頂点に立ったことになります。「日本のクラフトジン蒸溜所が、英米の伝統的ジン銘柄を抑えて、ジンの本流とされるClassic Gin部門で世界最高賞を取った」──この事実の重みは、世界のジン業界の見方を変えるインパクトを与えました。

同年、ohoro GIN Standardはさらに ISC 2024 Trophy / Double Gold、SFWSC 2024 Double Gold も獲得しています。

出典: World Gin Awards 2024 受賞者公式ニセコ蒸溜所公式

8. 2025年:松井「白兎プレミアム」が連覇を果たす

2025年。今度は鳥取・倉吉の松井酒造が、Contemporary Style Gin部門の世界最高賞を獲得します。

松井酒造合名会社の「マツイ ジン 白兎プレミアム」(明治43年・1910年創業)は、ジュニパー・鳥取県産梨・コリアンダー・オレンジピール・ゆずピール・和山椒・玉露・サクラ・ブラックペッパーの基本9種に、プレミアム5種を加えた合計14種ボタニカルで構成。鳥取県産の梨をジンの主役素材に据えるという独自性が、世界の評価を呼び込みました。

白兎プレミアムは過去6年連続でWGA入賞を続けてきた実力派でもあります(2020 Gold、2021 Bronze、2022 Silver、2023 Bronze、2024 Gold、そして2025 World's Best)。地道な改良の積み重ねが、ついに頂点に届いた瞬間でした。

ここで重要なのは、2024年のニセコと2025年の松井は「同じ部門で2連覇」したわけではないこと。Classic Gin部門とContemporary Style Gin部門は別カテゴリで、それぞれが部門別の世界最高賞です。それでも、ジンの主要2部門で2年連続して日本のジンが各部門のトップに立った事実は、ジャパニーズクラフトジンが「地域のニッチ」から「国際的な主役」へと格上げされたことを世界に示しました。受賞史の詳細は受賞ジン年表からご覧ください。

出典: 松井酒造プレスリリース(白兎プレミアム)松井酒造公式World Gin Awards公式

9. ジャパニーズジンが世界に評価される理由

日本のジンが世界で評価される理由は、単に「珍しい素材を使うから」ではありません。本質は4つの強みにあります。

① 「ジュニパー主体」を守りながら独自の和素材を重ねる設計力

ジンの世界定義(EU規則ではジュニパー主体)を守りながら、残りの設計枠を日本独自の素材で埋めるという戦略が一貫しています。これは「奇をてらった香り付けジン」ではなく、ジンの本流のなかで独自性を表現する正攻法。だから世界の審査員も評価しやすい。

② 繊細な和素材を扱う蒸留技術

桜花・玉露・煎茶・柚子といった熱に弱い和素材を活かすため、減圧蒸留・ベイパーインフュージョンといった技術を高い精度で使い分ける蒸溜所が多い。これは日本の酒造文化(日本酒・焼酎・ウイスキー)が育てた精密な発酵・蒸留技術の応用とも言えます。詳細はクラフトジンとは?完全ガイド「6. 蒸留方法」で解説しています。

③ 文化的な物語性

ROKUの「shun(旬)」、季の美の「6つのエレメント」、香の森の「森林セラピー」──。日本のクラフトジンは、ボトル1本のなかに文化的な世界観を込めることを得意としています。これは欧米の伝統的ジンが歴史の長さで勝負するのに対し、日本ジンが「物語の解像度」で差別化している点でしょう。

④ 地域素材の徹底活用

マルス津貫の津貫加世田産金柑、サクラオB&Dの広島県産9種、紅櫻蒸溜所の北海道産多素材、松井酒造の鳥取県産梨、ニセコ蒸溜所の湿原ヤチヤナギ──。「自分の蒸溜所がある土地の素材を主役に据える」という設計が、地域ごとに固有の表情を生み、ジャパニーズジン全体の多様性を生んでいます。

10. これからの10年

日本ジン協会の2023年11月調査(日本バーテンダー協会全国本部・支部の協力で実施)によれば、国産ジン蒸溜所は107施設、商品数は365銘柄に達しています。クラフトビールが2010年代に定着していった軌跡を、ジンが少しタイムラグを伴って追いかけている構図です。

これからの10年で起きそうなのは、次の3つの動きでしょう。

  • 地方蒸溜所のさらなる拡大: 各都道府県に1〜2蒸溜所、計70〜80軒くらいまで増える可能性。地域素材+ふるさと納税の組み合わせで、地域ブランドとしてのジン
  • 樽熟成ジン市場の成立: 季の美エディションK/Gのような樽熟成ジンが、より一般化。ウイスキーとジンの中間カテゴリが市場として認知されるかもしれない
  • 輸出市場の本格化: 2024-2025のWGA連覇を経て、英米欧亜の高級バーシーンでジャパニーズジンが定番化。ROKU・季の美・ohoro・白兎プレミアムが世界バーで共通言語に

1936年のヘルメスジン、2016年の季の美、2024-2025年のWGA連覇──。90年前に播かれた小さな種が、いま世界の舞台で花開きつつある。それがジャパニーズジンの現在地です。

11. 次に読むなら

本記事について Gin-DBのガイド記事は、各蒸溜所公式リリース、World Gin Awards 公式、日本ジン協会調査、サントリー洋酒文化資料、業界専門メディアを一次ソースとして執筆しています。歴史記述では、公的・公式の裏付けが取れない範囲では「日本初」「世界一」のような断定表現を避け、確認できた事実だけを掲載するよう努めています。最新情報は各蒸溜所公式サイトでご確認ください。